5分で読める!古典・古文の口語訳と問題集


古典・古文の問題と口語訳(宇治拾遺物語)

次の文章を読んで後の問いに答えよ。*の付いた語は後の語注を参照すること。

 

今は昔、唐(もろこし)に荘 子(*さうし)といふ人ありけり。家いみじう貧しくて、(       )食物絶えぬ。隣に監(かん)河(か)侯(こう)といふ人ありけり。@それがもとへ、今日食ふべき料の粟(あは)を乞(こ)ふ。

 

河侯が曰(い)はく、「今五日ありておはせよ。千両の金を得んとす。Aそれを奉らん。いかでかやんごとなき人に、今日参るばかりの粟をば奉らん。返す返すおのが恥なるべし」といへば、荘子の曰はく、「昨日道をまかりしに、跡に呼ばふ声あり。顧(かへり)みれば人なし。ただ車の輪跡のくぼみたる所にたまりたる少水に、鮒(ふな)一つふ(*)ためく。何ぞの鮒にかあらんと思ひて、寄りて見れば、少しばかりの水に、いみじう大きなる鮒あり。『何ぞの鮒ぞ』と問へば、B鮒の曰はく、我は河 伯 神(*かはくしん)の使(つかひ)に、江 湖(*がうこ)へ行くなり。それが飛びそこなひて、この溝に落ち入りたるなり。喉(のど)乾き死なんとす。我を助けよと思ひて、呼びつるなりといふ。答へて曰はく、『吾(われ)今二三日ありて、江湖といふ所に遊びしに行かんとす。そこにもて行きて放さん』 といふに、魚の曰はく、『更(さら)にそれ迄(まで)え待つまじ。ただ今日一 提(ひとさげ)ばかりの水をもて、喉をうるへよ』といひしかば、さてなん助けし。鮒のいひし事、我が身に知りぬ。更に今日の命、物食はずは生くべからず。後の千の金更に益なし」とぞいひける。それより、C「後(のち)の千金」といふ事名(*)誉せり。

 

語注

 

荘子  中国の戦国時代の思想家      ふためく  ばたばたする

 

河伯神  川の神    江湖  川と湖     名誉せり  有名になった

 

 

 

問一 本文中の(      )に入れるのに最も適当な語を次のア〜オの中から選んで記号で答えよ。

 

ア 明日の  イ 五日後の  ウ 今日の  エ 常に  オ 常ならず

 

問二 傍線部@「それ」、傍線部A「それ」はそれぞれ何を指すか。本文中の語を抜き出して答えよ。

 

問三 「監河侯」が「荘子」にすぐに食物を提供しなかったのはなぜか。最も適当なものを次のア〜オの中から選んで記号で答えよ。

 

ア 荘子のような貧しい人間と付き合うことは自分のような身分の高い者にとっては恥ずかしいことだから。

 

イ 荘子のような立派な人間にわずかばかりの食物を提供するのはかえって恥になると考えたから。

 

ウ 荘子に貸したものはいつも返ってこないのでそれを放置することは自分の恥になると考えたから。

 

エ 自分が求められたものを提供できないことがわかってしまうのが恥ずかしいので時間をかせごうとしたから。

 

オ 荘子が鮒を助けるために援助を求めたのを知っていて、そのようなことに応じるのは人間の恥だと思ったから。

 

問四 傍線部B「鮒の曰はく、」の後には会話を示す『 』を省略してある。この部分の[鮒」の言葉の終わりの五文字(句読点を含まない)を抜き出せ。

 

問五 「荘子」にとっての、1「今日食ふべき料の粟」と、2「千両の金」は、「鮒」にとってはそれぞれ何に当たるか。それぞれ本文中の語句を抜き出して答えよ。

 

問六

 

1 傍線部C「後の千金」という言葉はどのような意味になるか。自分の言葉を使って三十字以内(句読点を含む)で答えよ。

 

2 またこの言葉と同様の意味をもつ言葉を一つ次のア〜キの中から選んで記号で答えよ。

 

ア 遠くの火事より背中の灸(きゅう)

 

イ 遠くの親類より近くの他人

 

ウ 遠き慮(おもんぱか)りなき者は必ず近き憂(うれ)いあり

 

エ 遠水は近火を救わず

 

オ 後の雁(かり)が先になる

 

カ 後悔先に立たず

 

キ 後の祭り

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

解きましたか?それでは解答です。

 

問一 ウ  問二 @ 監河侯(といふ人)  A 千両の金  問三 イ  問四 びつるなり

 

問五 1 一提ばかりの水  2 江湖

 

問六 1(例)今必要なものがなければ、後でどんなものを得ても意味がない。  2 エ

 

【現代語訳】

 

今ではもう昔のことであるが、唐に荘子という人がいた。家がたいそう貧乏で、今日食べるものがなかった。隣に監河侯という人がいた。その人のところへ、今日食べるための粟をもらえないか頼みに行った。

 

河侯は言った。「今から五日したらおいでください。千両のお金が入る予定です。それを差し上げましょう。どうして立派な人に、今日お召し上がりになるだけの粟を差し上げることができましょう。つくづく自分が恥ずかしくなることでしょう。」と言ったが、荘子が言うには、「昨日道を歩いていたら、後ろで呼ぶ声が聞こえました。後ろを振り返ってもだれもいません。ただ車輪の跡のくぼんでいるところにたまっている少しの水に、鮒が一匹ばたばたしていました。どんな鮒であろうかと思って、寄ってみると、少しだけの水に、とても大きな鮒がいたのです。『どういった鮒だ』と聞くと、鮒が言うには私は河伯神の使いで、江湖に行きます。それが飛びそこなって、この溝に落ちてしまいました。のどが乾いて死にそうです。私を助けてもらおうと思って呼んだのです。と言いました。答えて言うには、『私は今から二、三日したら、江湖というところに遊びに行くつもりです。そこに持っていって放しましょう』と言うと、魚が言うには、『決してそれまで待てないでしょう。ただ今日一杯の水によって、喉をうるおして下さい』と言ったので、そのように助けました。鮒が言ったこと、自分の身をもって知りました。今日一日の命は物を食べなければつなげないでしょう。後日に千両のお金があってもまったく益はないのです」と言った。それ以降「後の千金」ということが有名になった。




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